文科省傘下の独立行政法人ということで、産休・育休の制度はかなり充実している。さらに和光本所には「理研キッズ和光」という託児所があり、外国人研究員の子供たちと合わせて受け入れているところがあるので、インターナショナルに育ててもらうことすらできる(ただし定員がいつも満杯らしいので受け入れまで待つ必要があるかも)。知人の主任研究員は旦那(国立大教授)に単身赴任させて、自分はその託児所に子供を預けながら研究していた。もちろん事務職でも利用できる。

研究職(ポスドク)だったが、給与は他所のポスドクに比べて遥かに良かった。昇進は厳しい業績審査を潜り抜けてラボヘッドになる以外の方法はないが、昇給は毎年12月の契約更改時にラボヘッドと交渉すればいくらでも期待できる(勿論ラボヘッドを納得させられる程度の最低限の業績は必要だが)。5年任期&年俸制&裁量労働制。評価制度については、事務(推進部)がかなり公平性を重視して監督しているのでこの手の研究機関としては非常に優れているといえると思う。事務職については、正規職員であれば普通に家庭を持ってやっていけるぐらいには貰えるらしい。ただし正規職員はバンバン転勤させられるので、持ち家を買うかどうかはある程度異動が収まってきてから考えた方が良い。

研究職:任期制(非正規)&年俸制&裁量労働制の3連コンボなので、ワークライフバランスは全くもって本人次第。早く来て早く帰るのも、それこそ遅く来て早く帰るのも自由。業績さえ稼げれば何も問題はないし、稼げなければ後で自分が潰れるだけ。事務職:3月末の決算期は多忙&長時間残業になるケースが多い(産業医からも指摘が出ている)が、その他の時期は基本的にお役所仕事で決して忙しくはない。趣味を持っていて終業後に楽しむ時間を設けている人は非常に多い。産休・育休制度も完備しており、家族の時間を作るという点でも問題は全くない。ただし、これらの環境も独立行政法人大統合後どうなるかは現在のところ不明である点に注意が必要。

私は研究職だったので、そもそも任期(5年)満了で「卒業」と相成った。ちなみにラボヘッドであっても5年ごとのラボ契約継続審査(海外から有名研究者を多数招聘して構成される審査委員会が半年かけて審査する)を突破できなければクビなので、どの職位にいても状況は変わらない。さらに言ってしまうと2017年にはセンターそのものが解散・縮小改組されるため、どんなに頑張ってもそこで大多数が退職を余儀なくされる見込み。事務職・技術職など非研究職の人たちの退職理由は様々だが、概ね良い企業に転身している人が多いので、あくまでも脳センターでの業務を「キャリアアップの場」とみなした上での転身なのではないかと思われる。

年休は20日。余った分は翌年に限り繰り越せるので、2年目以降は最大40日年休が取れる(定年退職間際の人はそれで年休を貯めておいて、退職直前に1か月休んで世界一周旅行とかしていた)。労働時間は研究職なら裁量労働制なので、要領良く仕事すればいくらでも融通が利く。事務職は普通に9時～17時20分。理研本体に同じく、住居手当(家賃の半分を上限として単身者4万円・既婚世帯主6万円までもらえる)がある。また和光本所なら共済会割引で極めて格安で職員食堂を利用できる。産休と育休が制度化されているので、これから子供を持ちたいという人にも安心。ジョブローテーションは研究職には皆無。事務職は正規職員ならかなり多い(というか全国に散らばる支所を異動しまくる)し、割と責任ある立場まで昇進する人も多い。ただし役員・部長クラスは中央省庁からの天下り組が多いので、内部で昇進し続けるのは難しいと思われる。しつこいようだが、これらの状況も独法大統合以降どうなるかは不透明である。

研究職の場合、ほぼ100%ポスドクなのでスキルアップもへったくれもない。勿論キャリア開発や教育体制なんてものは、ラボ次第の部分もあるが概ね皆無に近い。ただしそれはポスドク全般に関して言えることなので、理研脳センターもただの基礎研究機関でしかないということの反映に過ぎない。事務職は(見ていた範囲では)OJT主体ながら割ときちんとトレーニングされているようだ。自分が在職している間に入れ替わった人たちが何人もいたが、1年も経つ頃にはしっかり前任者と同レベルの仕事がこなせるようになっていた。ただしそれは正規職員の話で、派遣さんなんかだといい加減なようだ。

(研究職限定)研究テーマを1時間の枠で英語でプレゼンして下さい自分は研究職だったので、基本的には自分の研究関連スキル(特に実験手法・データ解析など)をラボヘッド個人にどうアピールするかが重要だったと感ぜられる。なお、研究職の場合ラボヘッドが承認すれば非常に形式的ながら事務部門トップを含めた正式面接に呼ばれて、当たり障りのない問答を経てオファーをもらうことになる。研究職・事務職関係なく、英語は必須。研究職なら確実にセミナーの場で満座の聴衆を前に英語でジョブトークをすることになるので、英語の苦手な人にはキツかろう。事務職の選考で英語力をどうチェックしているかは知らないが、赴任後は毎日のように日本語の通じない外国人研究者を相手にすることになるので、英語ができないと確実に辛くなる。嫌でも覚えることになるとはいえ、事前にある程度きっちり「聞けて喋れる」ようにしておいた方が良い。

研究職なら、もちろん研究業績を叩き出すことがやりがいなので特に説明を要さないだろう。事務職の場合は、様々な対外イベントを企画することが多いと思うので、そこにどれだけ客を呼べて、(もっと言えば)どれだけ後々スポンサーになってくれる企業関係者を呼び込めるかがやりがいになるポイントだと思う。近年は理研脳センターも良いイベントを企画していて、企業関係者も多く来ているようだ。後は、理研の中でも脳センターならではの魅力は「英語」だろう。センターの構成員の3割以上が外国人で、彼らの大半は日本語が通じず英語で話すしかない。そして、英語が公用語なので公式文書も半分は英語(公式メーリングリストも英語以外での投稿は原則禁止)。日本にいながらにしてまるで留学しているかのような環境を味わえるところは他にはごくわずかしかないので、これから赴任する人にはその「留学気分」を是非存分に味わって欲しいと思う。

<研究職>自分は研究職だったので、入所理由は勿論「研究者としてのキャリアを積むため」だった。ところが入所した当時は「内部昇進」のキャリアパスが存在したが、現在は原則として内部昇進が不可になったため、ラボヘッド以外の大半の研究職にとっては「5年以内に卒業するべきポスドク学校」になってしまった。この辺は産総研などきちんとしたテニュアトラック制度のある機関に比べると劣る部分だと思う。また、「学校」というには研究指導体制のラボごとのばらつきが大きく、残念ながら「良いラボヘッドの下についた人のみうまくいく」を地で行く状況だと思われる。そもそも日本の基礎研究者を取り巻く状況があまりにも悪いので、大前提として何か明るい期待を持って臨むこと自体が間違っていると言わざるを得ない。入所した人には頑張って欲しいが。<事務職>自分は事務職ではないので詳細は分からないが、在職中に見ていた限りでは入所後色々なところに異動したのち出世して上級職として凱旋してくる若手も多かったので、事務職の人たちにとっては良い環境なのではないかと予想している。

研究職の場合、研究員もラボヘッドも仲良く任期制(前者は5年満了で卒業・後者は5年ごとにラボ継続審査があって不可なら追放)なので、上司部下揃って一蓮托生という雰囲気がある。この辺は部下は限りなく使い捨てる大学のラボとは雰囲気が違うと思う。もっとも緊張感が強すぎて精神を病む人も多いが。事務職の状況は自分には分からないが、見ている限りではあまり役所のそれと変わらないようだ。ただし、独法研究機関としては珍しく目新しい事業やイベントを手掛けることが求められているせいか、成長企業のような雰囲気を職場全体に持っているようなイメージがある。しつこいようだが、独法大統合以後も同じ状況が続くかどうかは定かではない。